グレイマンシリーズ 暗殺者の復讐

 

過去作につきものだった足手まとい(フィリップ一家、エレン、ガンボア一家)がいなくなり、陰惨な内容からはずれて読みやすくなっている。ライバルキャラのウィトロックは強くて面白い奴だし、映像化するなら今作が一番向いていると思う。

互角のライバルキャラ、ウィトロック

今作では初めて、最強主人公ジェントリーに互角のライバルキャラが登場する。

ジェントリーと同じく独立資産開発プログラム(AADP)に資質を見出された、凄腕の独行工作員、ラッセルウィトロック。コードネームデッドアイ。二年間にも及ぶ過酷で困難な訓練を受け、凄腕の独行工作員として活動している。

このプログラムには19名が参加したが、困難な任務によって次々殉職し、いまや生き残っているのはジェントリーとウィトロックの二人だけ。作中、ジェントリーは最強の人物で、多勢に無勢がなければ絶対負けない設定である。一方のウィトロックは同じ訓練をうけ、まったく唯一同じ技量と隻眼を持つ互角の人物として描かれている。その技量や知識には共通点が多いが、その性格は対照的である。

ジェントリーは義理と人情に突き動かされる正義の処刑人で、発狂しそうなほど質素な隠遁生活を送っている。一方ウィトロックは殺しと贅沢が大好物のサイコパスで、暴れるのが大好きなヤンチャ坊主である。二人に共通するところが一つだけあって、二人ともとてつもない変人であるというところだ。

ジェントリーは超がつくほどの正義漢で、金ではなく正義のために骨身を削るような戦闘に身を投じ、非戦闘員は絶対に殺傷しないというポリシーを破ったことがない。

一方のウィトロックは金とやりがいをもとめて暗殺を行っており、一見のなんの変哲もない野心家にみえる。しかしその野心は常軌を逸しており、高額な任務を請け負いたいからという理由だけで、自分が所属している民間の殺し屋集団、タウンゼンドを裏切り、殺し合いに発展する。

ウィトロックの最初の陰謀計画となるタリンでは、ジェントリーを逃がすためだけに、タウンゼントの一級戦闘員8人名と交戦し、わき腹を負傷する。挙句、ジェントリーに罪を全て擦り付けるはずが、自分がグレイマンに変わって、世界の殺し屋に命を狙われ続ける寸前まで進む。

ウィトロックは常人を凌駕した頭脳と運動神経をあわせ持ち、かつ恐怖を感じないサイコパスという、超がつく厨キャラである。しかし考え抜いた計画は何一つ予定通り進まず、そのつど悪戦苦闘して命からがら切り抜ける羽目になっている。当初ジェントリーを助ける凄腕の謎のエージェントとして登場するが、最強の人物と期待していたジェントリーが何度も死に掛けるので、しぶしぶ助ける羽目になる。ウィトロックは自分の頭脳と技量に自信がありすぎるので、とてつもない策略を計画して、それを実行しないと気がすまない性格らしい。

ウィトロックはクッソ恐ろしい殺し屋の癖に、応援したくなる楽しいかっこいいキャラクターである。グレイマンシリーズでいちばん好きなキャラクターなのだが、残念ながら合えなく退場となってしまった。個人的にはマークグリーニーが書く、クッソ有能な女性キャラクターがあんまり好きじゃないので、ウィトロックが登場してくれたほうがいいなと思う。まあマークグリーニー氏のリアル作風では、ザックハイタワーみたいに死者がよみがえることはないだろう

グレイマンの戦闘力

今作では、世界最高の殺し屋といわれるグレイマンの戦闘力が具体的に記述されている。最初にウィトロックに追跡されて、フラッシュバンで確実に死んでいたのはともかくとして

CIAのタスク・フォース・ゴルフ・シエラ時代、目撃次第射殺命令がでる契機になった事件。ジェントリーは自宅アパートメントで、同僚である隊員四人に襲撃され、一対四で全員射殺して逃走している

同僚たちはシールズのような特殊部隊のなかでもさらに優秀な隊員が集められた精鋭部隊、デルタフォースであった。この隊員たちは明確に抹殺命令を受け、夜明けにジェントリーの自宅アパートメントを隠密奇襲し、きずかれることなくジェントリーを射殺しようとしていたはずだ。

この襲撃作戦は、ジェントリーに目撃次第射殺命令が出される前の話で、本人の警戒心もそれほど高くなかったはずだ。常に作戦で危険にさらされているから、病的に用心深くなっていたかもしれないが、危機察知能力と戦闘力。それに信頼できるチームの同僚たちにとっさに射殺し、国外に跡形もなく逃亡する行動力はすさまじい

グリーニー氏のことだから、今後この戦闘の詳細が語られるかもしれないが、非常に気になるところである。

そしてグレイマンを伝説と言わしめたキエフ作戦。この事件は本作でジェントリー本人が一人でやったと明かしているが、CIAの評価は十四人の特殊部隊員がいたと推測している

「キエフのあの晩、交戦がはじまると同時に、まったくおなじ時刻に二カ所が銃撃された。ターゲット四人のうちふたりは移動していた。ターゲットふたりは、おなじ銃から発射された弾丸で殺された。四人とも頭を撃ち抜かれた。スナイパー独りではぜったいにできない。スナイパーが三人いて、観測員も三人いたはずだ」バビットが、指を六本立てて見せた。「そして、そのあと、近接戦闘がはじまった。つまり、ほかにも六人ないし八人がいたにちがいない。CIAでは、キエフに十二人ないし十四人の特殊部隊員がいたと判断している……独りではなく」

つまりジェントリーは、CIAが十四人の特殊部隊員が必要と判断する作戦を、たった一人で完遂したことになる。まさに伝説の暗殺者である。リアリティ的に陳腐だとか言われるかもしれんが、ジェントリー氏は一応人間である